カオフラージュ

36

バイクは首都高と一部並走する国道357号線を高速出口前の信号を右に折れ、西へと向かい、本牧元町へと入っていった。

「やはり、あそこへ向かうのか……」

男の後を追いかける川島が呟くように言った。

 バイクは交差点で、左へ曲がりそれから少し走ると、光学園が見えてきた。次の瞬間、薄暗い闇の中、目の前に猫が飛び出してきた。男はそれを避けようとして、急なハンドルを切り、バランスを崩し、バイクから、身体が放り出された。倒れて滑るように対向車線に入っていったバイクは向かってきた車にぶつかって大破した。そこから、玉突き事故が発生し、辺りは騒然となった。

なんとか事故に巻き込まれることなく済んだ黒のスカイラインは離れた場所に停車した。

川島はすぐに車を降りると、どこからともなく現れたやじうまの群れをかき分けながら、男の元へと駆け寄った。愛も後を追った。

「おい、大丈夫か? しっかりしろ」

光学園の敷地内、ヨーロッパの街路灯を模した室外灯が照らす芝生の上に倒れる男を川島が抱き上げる。

「う……」

男がうめき声をもらす。

「救急車」

川島が叫ぶ。

 愛が慌てて、携帯をバッグから取り出そうと中を覗きこんだそのとき、頭の向こうで銃声がした。「え?」驚き、顔を上げると、目の前には腹から血を流しながら倒れる川島と一瞬で立場が逆転し、それを見下ろす男が立っていた。

「お前、晴子だろ……」川島は脇腹のホルスターから銃を奪い、自分を撃ったその男を見上げた。「お前は養父母が死んだ後、こつ然と姿を消した……ありとあらゆる記録からお前の情報がすっぽりと消えていた……瞳ちゃんに成りすましたお前がその立場を利用して、色々と画策したんだろう? 瞳ちゃんをどうした?」

「へえ。分かるんだ、私のこと。すごいじゃない。でも、それなら本当はもう知ってるんじゃないの? 瞳ちゃんがどうなったのか。たぶん、あんたの予想どおりだと思うけど、当然、私にぶっ殺されたわよ」

「貴様……」

立ち上がることができずに倒れたままで、ハルコを睨みつける川島。

「そしてあんたもここで私にぶっ殺されるというわけね」

川島に銃を向ける、ハルコ。

「やめて」

愛が叫ぶ。

「お前は……瞳ちゃんを……姉さんのことを本当は憧れていた……だから、彼女に成りすましたんだろう?」ハルコに顔を蹴られながらも、川島は話を続ける。「あのトイレの小瓶……あの暗号もお前だろう? お前がヒントくれたんだろう? 認めようが認めまいが、お前の中の瞳ちゃんへの憧れが、良心を持つその人格を生み出したんだ。お前は新しく生まれ変わろうとしたんじゃないのか? もちろんそれで罪が消えるわけじゃないが……一旦はハルコという人格を自らに封じ込めたんじゃないのか」

「人の人生、勝手にドラマチックに語ってるんじゃねえよ」

 ハルコの銃が再び、川島に向けられる。それと同時に愛が引き金をひき、ワイヤー針がハルコの肩に突き刺さる。すると今度はハルコが銃を愛に向け、引き金をひいた。が、その瞬間川島が彼女の足を引っ張り、体勢が崩れた状態での発砲となり、弾は愛の肩をかすめた。百万ボルトの衝撃がハルコの身体を走ったが、動けなくなるほどではなく、すぐさま再び銃口を川島に向けた。

「川島さん」

その場に膝をつき、肩の傷口を押さえながら愛が叫ぶ。

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マウスでアニメやマンガのキャラクターのイラストや4コママンガを描いています たまに小説も^^

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