カオフラージュ
27
「ああ――」
男は叫び声とともに、目を覚ました。
「大丈夫ですか?」心配そうに愛が彼の顔を覗き込んだ。「悪い夢でも見たんですね。うなされていましたよ」
「あ、いや。すいません。知らないうちに寝てしまって」
彼は取り繕うように言った。
「きっと疲れているんですよ。色々と引きずり回しちゃって、ごめんなさい」
「いや、そんなことないです。とても楽しかったです。僕、記憶を失くして自分が誰なのかもわからなくて。すごく怖くて、心細くて。でもあなたに会えて、救われたような気持ちなんです」
「そんな」
彼女は照れくさそうに微笑んだ。
「お姉さんのこと、すいません。力になってあげたいんですけど、怖くて。僕はひょっとして、事件に何か関わっているんじゃないか、そう思うと――」
「そんなことないですよ。あなたは悪い人じゃない。絶対に。もし、事件に関わっているとしたら、それはあなたが目撃者だということですよ」
「では僕はお姉さんのことを見殺しにしてしまったんでしょうか?」
「え? 違いますよ。あなたは事件を見たショックで記憶を失くしてしまったんですよ。きっと、そうだわ」
「あの、変なこと言うようですが、お姉さんの知り合いにハルコという女性はいませんでしたか?」
「ハルコ? いや、そういう名前の知り合いはいなかったと思いますけど。何か思い出したんですか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど。あの、お姉さんの事件について詳しく聞かせてもらえませんか?」
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