カオフラージュ
26
男は夢を見ていた――彼は誰もいない港で一人、海を見つめていた。
突然、耳元で女の声がした。
「ハルコ」
その囁くような声にギョッとして、彼は後ろを振り返るが、誰もいない――次の瞬間、目の前に胸をナイフで刺され、大量の血を流す女が現れる。彼女は首を前に倒し、長い黒髪に覆われ顔が見えない。
「ハルコ」
彼女は再び、そう囁くと両手で彼の首を絞め始めた。
「うう」うめき声を洩らす彼の目の前で、彼女がいきなり顔を上げた。彼は恐怖のあまり、息を呑んだ。長い黒髪の間に見えた――それはまぎれもなく、彼自身の顔だった。彼は彼女の手を振りほどき、絶叫した。
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