カオフラージュ
20
殺害現場となった病室は入院患者専用の、広さは十六平米ほどの個室で、シャワーユニット、トイレや洗面所などが備え付けてあり、
そのほぼ中央に置かれたベッドの上にはロープのようなもので絞殺された被害者の遺体がぶらさがっている。
瞳とチャンが臨場すると、ベッドの周辺を鑑識員が特製のブラシに付着させたアルミパウダーを振り掛けるようになぞりながら指紋の採取をしていた。
「つまり、夜中の二時に原因不明の停電が起こり、本来なら働いているはずのセキュリティーセンサーやカメラがまったく役に立たなかったというわけね」
瞳が言った。
「はい。予備電源にも切り替わらなかったそうです。今、鑑識が調べていますが、おそらくホシが何か細工したのだと思われます」
先に来ていた石本が答えた。
「警備員は何していたんだろう?」
チャンが首をかしげる。
「停電の対応に追われて、てんてこ舞いだったらしい」
「川さん、カードは予想通りでしたか?」
瞳が訊いた。
「ああ。確かに【Scanner】の文字だった」
「これで間違いありませんね。やはり、エニアグラムです」
チャンが言った。
刑事たちの後ろで、鑑識員が二人掛かりで、ベッドの上の亡骸を遺体袋へと収納する作業に取り掛かった。瞳は少しの間、それを黙って見つめていたが、唇を少し噛んでから、静かに口を開いた。
「残りは三人。彼らはもう身元が明らかなのだから、絶対にこれ以上の犠牲者は出させないわよ」
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