カオフラージュ

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 瞳とチャンの二人が乗る黒塗りの捜査車両、V36スカイラインは今、横浜市立病院に向かっている。

「裁判所の公判記録を調べたら、やはり被害者たちは同じ裁判を担当した裁判員でした。今、向かっている現場の被害者である田辺和史さんの名前もありました」

ハンドルをきりながら、チャンが言った。

「裁判官三人と裁判員六人の、合わせて九人。

やっぱりホシは彼らすべてをターゲットにしていると考えるべきなのよね?」

「それですが、あの例の謎の英単語と九という数字でネットを調べたら、エニアグラムというのがありました」

「エニアグラム?」

彼女が首をかしげる。

「僕も初めて聞いた言葉です。エニアというのがギリシア語の九で、グラムが図を表すようです」

「九つの図?」

「いえ、なんか円周を九等分して作る図形らしいです」

「なんだか、むずかしいわね」

「はい、確かに。で、エニアグラムの意味は真の自己を理解し、本来の自分自身へと至る道だそうです」

「ますますわからないわ」

彼女は苦笑した。

「元は宇宙の原理を説明するために生まれたものだとか、その起源については色々と説があるようですが、今は人間の性格を九種類に分類した性格論というのに使われているそうです」

「九つの性格? ああ、それが“改革者”とか“支援者”とかカードに記されていた英単語の本当の意味なのね。それなら、理解できるわ」

「はい。一時はカードが表す性格と被害者の性格とが必ずしも一致するわけではなかったので、困惑しましたが、当然ですよね。ホシは初めから、このエニアグラムで被害者は全部で九人になると、そのことを示していたのですから」

「となると、残りの三人は裁判官。彼らの保護が必要ね」

「それなら、すでに警官を送ってあります」

「さすがね」彼女は言った。「それにしても、あの暗号文といい、なんだか私たちが無能だとでも言いたいのかしらね」

「それより、警部。次の問題はなぜホシが裁判員となった彼らをターゲットにしているのか? そこだと思うんですけど」

「それは彼らが担当した裁判の事件に関係しているんじゃないかしら」

「僕もそう考えていました。彼らが担当した事件、日本在住のアメリカ人、マイケル・アーロンが引き起こした連続殺人事件、いわゆる“ナンバーズ・マーダーズ事件”答えはおそらく、そこにあるはずです。考えてみればあの事件も殺害現場にカードを残してゆくという共通点がありました。ま、この種の事件は他にも結構ありますが、それにあちらの場合、カードに記されていたのはただの数字でしたからね。言い訳ですけど」

 二人を乗せた車が病院に到着した。


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