カオフラージュ

14

 ぬかるんだ地面の上に敷かれた急場しのぎの木道を静かな足取りで川島刑事が現場入りした。現場にはすでに複数の鑑識員と石本とチャンの両刑事がいた。第五の死体は目の前に大きな横浜スタジアムが見える、横浜公園の西側にある公衆便所で発見された。

「仏さんの身元は?」

川島が訊いた。

「はい」チャンが答える。「財布に免許証がありました。名前は八代慎平さん、年齢は38歳です。死因は見てのとおり、首を切られたことによる失血死と思われます。死後、二日は経過していると思われます。個室で内側から鍵をかけられていたこと、大量の血はすべて便器の中に流れ出たため、外には出なかったこと、そしてこの二日間の大雨でほとんど人の利用がなかったことが発見を遅らせた原因だと思われます」

「第一発見者は?」

「市の清掃職員です。凶器や指紋は残されておらず、例のカードはありました」

今度は石本が答えた。

「土砂降り……人も寄りつかない……じゃあ足跡は? 足跡はどうだったんだ?」

「ありませんでした。被害者の靴跡も残ってはいなかったので、おそらく殺害時に雨はまだ降っていなかったと思われます。で、その後の大雨で二人の足跡は流されてしまったようです」

「そうか。今度のカードには何と?」

「はい」チャンが答える。「【Observer】とありました。“観察者”という意味です」

「てことは」石本が言う。「この仏さんが“観察者”? どういう意味だ?」

「それは調べてみないと分かりませんが、この間の被害者、宮津千代子さんのカードにあった、“革新者”という言葉と彼女の繋がりは結局、何も見つけられなかったじゃないですか。最初の三つのアルファベットがたまたまで、ヘタをすると、この言葉には何の意味も無いって可能性もあるかもしれません」

「意味がないだって?」石本が呆れたように言う。「じゃ、ホシは何のためにこんなことやっているっていうんだよ」

「僕は飽くまで、可能性の話をしているんですよ」

「よし、よし。もういい」川島が二人に割って入る。「アルファベットの詮索は後だ。とりあえず今は事件のあった日、この辺りで不審な人物を見かけた、あるいは何か物音を聞いた人がいなっかったか。近所を聞き込みにあたってくれ」

 石本とチャンが現場から離れ、川島と数名の鑑識の係員だけになった。

「しかし、ガイシャはまた何でこんなところで殺されたんだ?」

川島は狭い個室で便器の脇に押し込まれたように窮屈な姿勢の遺体を見つめた。すると、顔が上向きの遺体の目線の先に天井の点検口パネルが少し開いていることに気がついた。彼は隣との仕切り板についた手すりのスチール・パイプに足をかけ、上へと登った。そこへ、瞳が臨場した。

「川さん、何しているの?」

「ああ、瞳ちゃんか。何かおかしいんだ」

彼は仕切り板の縁を片手でつかみ、身体を支えながらもう一方の手で慎重に天井の点検口パネルを押し開いた。すると、そこからガラスの小瓶が落ちてきた。彼は素早く下に降り、床に落ちたその小瓶を拾い上げた。小瓶の中には白い紙が丸めて入れてあった。紙を取り出し、広げてみるとそこには暗号文らしきものが記されていた。それは横書きの文が縦に三列で表記され、一番上の文には【※】が九つ。真ん中の列は左はじの一文字だけが【R】であとは八つの【※】そして、一番下の文には【RSBPDHWIJ】と書かれていた。

「一体何なの? これは」

瞳が言った。

「さあな。暗号に間違いはないだろうが。チャンは、確かこうゆうのが得意じゃなかったか?」

「そうですね。署に戻って、みんなで調べてみましょう」

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マウスでアニメやマンガのキャラクターのイラストや4コママンガを描いています たまに小説も^^

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