カオフラージュ

13

 具合が悪そうな男をトイレまで案内して、そこで別れたが、愛はその後も彼のことが気になっていた。だが、彼は放っておいて欲しいようだったし、また何かあれば他の人だってこのビルにはたくさんいるのだから、心配することはないと自分に言い聞かせ、いつものように屋上へと向かった――姉がこのビルの屋上から、何者かに突き落とされて転落死してから間もなく一年。犯人は謎の連続殺人犯で、恵理が二番目の犠牲者だが、まだ捕まってはいない。愛は容疑者や捜査の進展について、警察に詳しい説明を何度も求めたが、捜査上の秘密なので明かせない、我々を信用して任せてほしいとの一点張りだった。だが、いつまで経っても事件が解決しないことに業を煮やした彼女は自分で真相を突き止めることに決めたのだ。しかし、実のところ自分なりに目撃者がいないかこの数ヶ月、このビルを利用するありとあらゆる人や周りのビルで働く人などに聞き込みをして回ったが、時間が経っていることもあり、やはり有力な情報を得ることは出来ずにいた。それでも、あきらめる気にはなれず、毎日このビルの屋上に来て、思いをあらたにしていた。彼女はいつものように、東側のフェンスから見える横浜の海を眺めた。夏の日差しで白くぼやけた穏やかな海が水平線の彼方の青空の端っこの青を滲ませ、薄い水色にしている。

 突然、男の叫び声が聞こえてきた。彼女はすぐに声のする方へと駆けていった――南側のエレベーター棟だ。するとそこには、さきほどの男が頭を抱えながら、倒れていた。

「どうしました? 大丈夫ですか?」

愛がそう声をかけると、彼女に男がすがりついてきた。

「お、女の人が……誰かが突き落されて……殺された」

「え? 何ですって」

彼女は思わず、大声になった。

cocomocacinnamon's Blog

マウスでアニメやマンガのキャラクターのイラストや4コママンガを描いています たまに小説も^^

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