カオフラージュ
12
男はトイレのメッセージにあったハルコという名前を手がかりに何か思い出せないかと何度もその名を声に出してみたが、灰皿でもみ消したタバコの残り火のように記憶の隅に何かがくすぶっているような感じがしただけで、それもすぐに消えてしまった。それから彼はメッセージを残していった人物について色々と思いをめぐらせた。誰かが自分のことを助けてくれているのだろうか? だとしたら、一体誰が? 何のために? 男はこのビルにはまだ何かあると感じ、フラッシュバックで見た屋上に行ってみることにした。
エレベーターが屋上に着き、彼は外に出ると再び、フラッシュバックに襲われる――屋上から女性が突き落とされて、仰向けに落ちていくその女性の瞳の中にもう一人の女性の影が映る。
「ああ――」
彼はたまらず絶叫した。
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