カオフラージュ
5
見覚えのない薄暗い部屋の中で記憶を無くした全裸の男はそこにいたたまれず、ドアを探し隣の部屋に移ると、急に目の前が明るくなり――夜ではなかった。立ちくらみして倒れそうになった。
目が慣れてくると、その部屋も六畳ほどの洋室で大きなガラス窓があり、外にバルコニーが見えた。それともう一枚のドアがあった。床は同じくフローリングでやはり家具も何も無い部屋だったが、壁にかかる鏡を見つけると、彼はすがるように駆け寄った。一瞬、鏡に映る姿にたじろいだ――スキンヘッドで、目鼻立ちの整った美しい顔。その顔にまったくの見覚えが無かったのだ。
「俺は、俺は誰なんだ?」
彼は涙を流し、顔を伏せると、足許に数枚のカードが散らばっていることに気がついた。
「何だ?」
拾い上げたカードにはアルファベットの文字が記してあった。彼は訝しげな表情で、カードを裏にすると、「あ」突然、声をあげ、カードを放り投げた。床に落ちたカードの裏側には真っ赤な血の雫が、まるで毛細血管がそのまま張り付いたかのような模様を描いていた。
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