カオフラージュ
2
愛華楼は横浜中華街の東側入口、朝陽門から中華街大通りを西へ向かい、中山路を左に折れ、少し入ったところにある古びた中華料理屋だ。店の外観はお世辞にもきれいとは言えず、一見すると営業しているのか疑わしくなるほどだ。だが、こういう店には往往にしてある話だが味の評判は意外に良く、常連客には著名人や政治家などもいる、知る人ぞ知るといった隠れた名店だ。
店の横にある狭い路地に面したドアが開き、中から両手にごみ袋を抱えた調理服姿の、大きな身体をした中年の男が姿を現す。彼は両手のごみを放り投げようとしたが、ごみ捨て場の山の中に、大の字に眠る女性がいることに気がついた――まるで場違いな彼女は人形のような可愛らしい顔をしたポニーテールの女性で、背もあまり高くなく、どちらかというと華奢な感じのその姿はまさに少女のようだった。
彼は彼女を見ると、ため息を一つ落とし、ゴミを脇に置くと、そばに寄った。
「なんだよ、愛ちゃん。また酔っぱらってこんなところで寝ているのか」彼は叫んだ。「ほら、起きて。風邪ひいちゃうよ」
「誰? ていうか、ここはどこ? 私は誰?」
目覚めた彼女はまぶたをこすりながら、彼の顔に焦点を合わせるように大きくてクリクリした目を細めながら、言った。
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