新生喜劇~LA RENASCITA COMMEDIA~
13
情報屋に連れられ、私とラファロは前に訪れた、仙台駅前にそっくりな場所にある三十階建ての高層ビルへとやってきた――二度目だというのに、なぜだかもうお馴染みの場所に感じられた。だが今度は上へと昇るのではなく、逆に地下へと足を踏み入れた。そこで私はすぐに自分の間違いに気がついた。そこはお馴染みの場所どころか、同じ場所かと疑いたくなるようなところだったのだ。
塵一つないほどにきれいで、新築のように傷一つない上階の雰囲気とは真逆で、まるで廃墟のような罅割れたコンクリートの薄暗い階段を、へたくそなウィンクみたいに明滅する照明に照らされながら、恐る恐る私たちは情報屋の後に続き、地階へと降りていった。
「本当にこのような場所にその方はいるのかい?」ラファロが訝しむように尋ねた。
「ああ、いるとも。ちょっと変わった奴なのさ。さあ、着いたぞ」
階段はそこで終わり、目の前には事務所の入り口のような古びたドアが一枚だけあった。
「俺の案内はここまでだ。あとは自分たちで行ってくれ」情報屋はそう言うと、ドアの脇へ移動し、せまい通路の道を空けた。「さあ、行ってきな」
促されるようにドアを開けると、同じように薄暗い通路がさらに伸びていた。
「悪いね。全部嘘だよ」
情報屋は私たち二人をまるで通勤ラッシュ時の駅員のように中へと押し込み、すばやくドアを閉じた。すると、目の前の風景が突然、暗い洞窟へと切り替わった。
「え? 何これ?」
驚き振り返ると、ドアは無く、石壁に塞がれて道も消えていた。
「何かがおかしいですよ」ラファロが言った。
「移動することもできないみたいです」
外へのテレポートができないという意味らしい。
「それにしても、何なんだ? 彼も天使で同僚だって言ってなかったっけ?」
「はあ。しかし、どういうことなのか私にもまったくわかりません」
暗いといっても先に明かりがあるのか、完全な闇ではなく、目が慣れてくると、なんとなくは周りが見渡すことができた。
「こんなところで、どうすりゃいいんだよ」
嘆く私の耳元を何かがかすめるように移動していった。
「うわっ! 何だよ!」
天井を見上げると蠢く黒いかたまりが目に飛び込んできた――蝙蝠の群れだ!
「マジかよ!」
思わず叫んでしまった私の声に当然のように反応した彼らは狂ったように洞窟の中を一斉に思い思いの方向に飛び回り始めた。やがて、そのうちの何匹かが私たち二人に向かってきた。そして、私の首元に噛り付いてきた。「イテッ! こいつら、吸血蝙蝠だ!」
私たちは纏わりつく蝙蝠たちを振り払いながら、とにかく全速力で、その場から逃げ出した。五百メートルほど走ったところで、急に明るく開けた場所に出た。そこまで来ると、蝙蝠たちは踵を返すように、洞窟へと戻って行った。
そこは明らかに人工的な空間で白塗りの壁に囲まれたロビーのような場所で、またしても一枚のドアがあった。
「今度はどんなアトラクションが待っているんだ?」
Tシャツだった私の腕は、何匹もの蝙蝠に噛みつかれて、血だらけだった。しかし、私がこうなるのはわかるとして、さすがに流血は見えないものの、天使であるラファロの服もかなりボロボロになっていた。
「あのさ、天使もケガとかするの?」
「ここは恐らく天界ではありません。ですから、その可能性はありますね」
「やっぱり、ここは天国じゃないのか?」
「はい。なので、瞬間移動や破れた衣服の修復もできないのでしょう」
「それじゃ、ここはどこなんだろう?」
「さあ、私にもさっぱり見当がつきません。申し訳ありません」
「いや、君が謝ることないさ。君だって被害者なんだから。悪いのはあの君の同僚だ」
「ええ。でも、きっとあれは本当の彼では無かったと思います。天使は何があっても、このようなことはしないはずですから」
「それじゃ、何者かが彼に化けていたということか?」
「「あるいは操られていたのかもしれません」
「でも、いったい誰がそんなことをするっていうんだ?」
「ここで話していても埒が明きません。とにかく、先に進んでみましょう」
「ああ、そうだな」
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