新生喜劇~LA RENASCITA COMMEDIA~
12
オレイカルコスから図書館がある街までは再び汽車に乗って戻らなければならなかった。駅に降り立つと、下界の時間で言えば、それはせいぜい一日ぶりぐらいのことなのだろうが、何だかかなり久しぶりのような感じがした。
駅からは直接ガブリエルの書庫までテレポートで移動した。彼女は前と同じようにたくさんの本を抱えながら、本棚の前を行ったり来たりしていた。
「百十八ねえ……どうやら、あの方はあなたにゲームをさせたがっているみたいだから、きっとヒントになるその数字も下界のものだと思うのよね」私たちから話を聞いたガブリエルが言った。「これって、確実な数字とは本当は言えないのだけれど、総数が百十八個で、それぞれに番号がついていると言ったら、それは元素記号しかないわ」
「水兵リーベ僕の船って、あの?」
「何ですか、それ?」
ラファロが聞いた。
「そうか。わかるわけないか……水素、ヘリウム、リチウムって……ああ、だからつまり、それら元素のこと」
「確実な数字じゃないというのは?」ラファロが今度は彼女に聞いた。
「現在、人間界では原子番号を人工的なものを含めて、百十八まで振っているけれど、正式に名称が与えられているのは、百十二番のCn、コペルシウムまでよ。もう少しで、百十三番の元素にも名称が決まりそうだけど。いずれにせよ、超重元素や安定の島などまだまだ未踏の分野が残っているわね。でも、とりあえず現時点において、全部で百十八個あって、暗号の番号が文字に変換できるもの。そういう条件に合うと言ったら、それはやはり元素しかないはずよ」
「そういうことでしたか」
「難しい話はさっぱりだけど、それじゃ、もう暗号は解読できるのかな?」
「ええ、そのはずよ」彼女は微笑みながら、話を続けた。「つまり、こういうことね。番号っていうのは原子番号のこと。暗号の分子の部分に並べてある番号、15、8、15、8、116、92、1をこれに照らし合わせていくと、十五番は原子記号のアルファベットがPだから、日本語で言えばリン。そして、八番はO、酸素ね。これが、繰り返しだから、アルファベットはPOPOになるわね。続いて、百十六番のアルファベットはLvでリバモリウム、それから九十二番、これはUでウラン。そして、最後の一番はHで水素。で、これを並べると、POPOLVUHになる」
「ポポル……ブフって、読むのかな? 何これ?」
「その名前聞いたことがあります! 確かそういう名前の本があったと思います」
ラファロが図書館司書らしい台詞を吐いた。
「おお、そうか。で、どこにあるんだ?」
「それが、その……忘れました」
「マジか? 君は司書だろ? 本のことは何でもわかるんじゃないのか?」
「もちろん、自分の担当する書庫の本についてならば、そうなのですが、その本はどこか他の書庫にあったのです。そして、その階の担当者にそのお話を聞かせてもらったのです」
「その、同僚を忘れてしまったと、そういうわけ?」
「同僚と言っても、ガブリエルさんのように親しくなかったので……すみません」
「こんなときこそ、あの方が必要ね」
ガブリエルが言った。
「そうか……「本の人」!」
私がそう叫ぶと、ほぼ同時に背後で本棚の仕掛けドアが開き、一人の男が入ってきた――情報屋だった。
「話はわかっている。『ポポル・ブフ』について知りたいんだろう。詳しい奴のところへ、俺が連れて行ってやるよ」
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