新生喜劇~LA RENASCITA COMMEDIA~


 胡散臭いが天使であるという、情報屋の教えてくれたその女性のマンションは彼のアパートから3ブロックほどしか離れていなかった。こちらのマンションは比較的こぎれいで、割と新しめの建物のように感じられた。六階建ての最上階にある彼女の部屋は3ベッドルームのコンドミニアムで、広いリビングダイニングにロフトもあった。白一色のシンプルな内装に家具もそれほど多くはなかったので、余計に解放感があるように感じられた。突然現れた私たちを彼女は何も聞かずにまるで旧知の間柄とでもいったように、親しげに優しく部屋に招き入れてくれた。彼女は気品があり、まるで英国女優のようにきれいな顔立ちで、スタイルも良く、輝くようなブロンドの長い髪とターコイズ色の瞳が、青のギンガムチェックのフレアワンピースに白の厚底ウェッジヒールサンダルという恰好に、とてもよく似合っていた。情報屋によると、彼女は元々は、私と同じく人間として、人生を全うし、今はソウルの状態にあるということらしい。だがそれならば、一つ疑問に思うことがある。この世界においては思うことは何でも実現できる。つまり、彼女は老いることも、傷つくこともない身体で見た目は生前のままの姿を再現している。しかし、そういった場合、それぞれの魂が別々のイメージをしたら、この世界の姿はどうなるのか? これには堪らず疑問を口にすると、「ああ、それはお互いに相手のイメージを共有することができるので、一緒にいるときは自分の意志で相手に合わせることができるのです」天使は言った。「ただし、あなたには難しいと思われます。ちなみにこの部屋や彼女の姿は彼女のイメージ通りのものです。天使は極力、あなたの創造する世界に合わせようとしますが、ソウルのみなさんと触れ合う場合はそちらのイメージに引き寄せられることが多いでしょう」

 説明されても私には十分な理解ができず、なんだか名うての詐欺師にでも引っかかったような気分になった。

 リビングに置かれた、白のロココ調の三人掛け高級ソファに並んで座ると、左端に座った彼女が、唐突に真ん中に座る私に向かって、

「雲が見える……変わった形だわ。なにかしら? 爬虫類……? とにかく不思議な形。それと…鳥ね。何か大きい鳥だわ」

 そう言った。

情報屋の話では彼女は生前、霊能力者だったらしいが、今や彼女は霊そのものになったわけだが、その能力はここでも健在ということなのか?

「あなたも今はソウルの状態だけど、正式に天に召されたわけではないので、私にはまだあなたの未来が見えるわ――」彼女が言った。「魚ね。それと香ばしい匂い。とてもいい香りだわ……いったい何なのかしら? とにかく、あなたは今、迷路にいるのね。しかも、これらのイメージが表す謎……というか、繋がりを解かない限り、あなたは永遠にそこから逃げ出すことはできないわね」

「爬虫類の形をした雲、大きな鳥、魚、香ばしい匂い。四つのイメージの謎」

 いつのまにかメモを取っていた、天使が確認するように繰り返して言った。

「そして、その為にはあの方の力がどうしても必要だわね。ちょっと待って、今どこにいるのか探してみるわ。特別な存在だから、何かを感じ取れると思うの」そう言って、彼女は瞑想でもするように目を閉じた。「海が見える……ああ、キャノボール・パークね……そうだわ……プリッツエル……焼きたての……それに鳩……ダメだわ。これ以上は見えない。でも、そこへ行けば、きっと誰かに会えるわ。男なのか女なのか老人なのか、それとも若者なのか、それはわからないけれど、その人は絶対にあの方に出会うために必要な人」

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マウスでアニメやマンガのキャラクターのイラストや4コママンガを描いています たまに小説も^^

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