カオフラージュ

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 最後のマルタイである風見洋子、六十八歳はもうすでに裁判官は退官して、今は去年亡くなった夫の会社、風見貿易の社長の座に収まっていた。彼女はその年齢を忘れさせてしまうほど精力的な女性で、ひと時も身体を休めることはなく、とにかく動き続けていた。その姿は、動きを止めれば死んでしまう回遊魚を連想させた。

 瞳とチャンが挨拶すると、

「私が最後の一人ですって。あなたたち、それでもプロなの。全然安心できないじゃない」洋子は歯に衣着せぬタイプの女性だ。

「出掛けるわよ。あんたたち、ちゃんと守りなさいよ」

 本牧埠頭の商港区にある風見貿易の倉庫内には商品である家庭用品の詰まった段ボールが山積みされており、その間を縫うように通路が巨大迷路のように広がっていた。その中を洋子は担当者とぐるぐるとめまぐるしく移動しながら、何やら打ち合わせをしている。  

倉庫の入り口で、チャンが合流してきた川島と石本を出迎えた。

「瞳ちゃんはどこだ?」

開口一番、川島が尋ねる。

「え? あ、今倉庫の方に……」そう言って、チャンが倉庫を振り返ると、

「キャアー―」

洋子の悲鳴が庫内に響き渡った。

駆け出す、川島。あっけにとられながらも、後を追いかける二人。

段ボールの通路を抜け、いくつかの角を曲がると、少し開けた場所に出た。そこには洋子と社員の男が血だらけの姿で倒れていた。

川島はそれを横目に通路を先へ進む。遅れてきたチャンと石本が倒れる二人の脈を取るが洋子の方はすでに息絶えている。社員の男の方は気絶しているだけのようだ。彼に付着している血はマルタイのものと思われる。チャンは携帯で鑑識と救急の手配をする。

「待て、待つんだ、瞳ちゃん」

通路の先に川島の声が響く。駆け出す刑事たち。

 二人が通路の切れ目を曲がると、そこは工場の裏口で、ドアが開いていた。外へ出ると、目の前には東京湾が広がっている。その手前の草むらに覆われた空き地の少し先で川島が何かに向かって叫んでいる。二人が近づいていくと、さらに、その先で海へと猛スピードで突っ込んでゆく、一台の車が見える。銃を構える川島。

「止まれ、止まるんだ、瞳……」

その瞬間、車はダイブし、そのまま海へと一気に飲み込まれていった―― 

cocomocacinnamon's Blog

マウスでアニメやマンガのキャラクターのイラストや4コママンガを描いています たまに小説も^^

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