カオフラージュ
32
『光学園』の応接室の革張りのソファアに向かい合う学園長と川島。
「それでは、当時の資料はもう一つも残ってはいないのですか?」
川島が言った。
「はい。なぜか、八十年代後半から九十年代前半までの資料だけが見当たらないのです。なぜなのかはわかりませんが」
「当時の職員の方は?」
「ええ。一人、相沢というのがおります」
応接室のドアがノックされると、四十代の眼鏡をかけた細身の女性が現れた。
「相沢です」
彼女が言った。
「ああ、どうも川島です」席を立ち、軽く会釈した。「さっそくなんですが、九十年代前半の頃、当時ここにいた晴子という少女がどこへ引き取られていったか覚えていませんか?」
「晴子ちゃん? ああ、覚えています。私の担当ではなかったのですが。確か座間市の山田さんという方のところへ養子縁組されたと記憶しています。そういえば、何年か前、彼女も大人になってからですけど、養親はお二人ともお亡くなりになられたと、風の噂に聞いたような気がします」
「そのあとの彼女については何か知りませんか?」
「さあ、そこまでは」
「そうですか。ありがとうございました」
養護施設を後にした川島は座間市の市役所に向かった。
0コメント