新生喜劇~LA RENASCITA COMMEDIA~

 久しぶりに彼女の夢を見た――十年前、大学で初めて出逢った頃の。離婚して三年以上経つが、こんなことは初めてだ。卒業後、二年の交際を経て結婚した私たちの結婚生活は一年というあまりにも短いものだった。別れた当時は身を切られるほどの思いだったが、やがてその傷も癒え、いつしか彼女のことは忘れていたはずなのに……。

 仙台市の中心街よりやや北側にある国見と呼ばれる高台に私たちの大学はあった――丘陵地帯を切り拓いて作られた住宅街に取り囲まれたキャンパスの周りには、アップダウンの激しい坂道がいくつもあり、どこへ行くにも上ったり下ったりを繰り返さなくてはならなかった。

 私たちの住むアパートは――といっても同棲はしていない。(彼女が住んでいるのを知り、追いかけるように引っ越したのだ)大学の裏門から坂を上り、住宅街を抜け、けもの道を進み、さらに急勾配の坂を上りきったところにあった。裏手には仙台の街を一望できる、見晴らしのいい丘もあった。私は彼女とそこにいた――つまり、夢の中で夢だという自覚があるということだ。   

目の前に広がる空は、ラテン語の空色が英語化した、いわゆるセルリアンブルーで、まさに目が覚めるような鮮やかな青だった。季節は初夏の装いで、みずみずしい若葉たちの深呼吸が吐き出す、さわやかな息のような大気に満ち、暑さと寒さの天秤がやや暑さに傾きかけていた。

しばらくの間、私たちは言葉もなく、ただ街を眺めていたが、二人の頭上を、トカゲの形をした不思議な雲が、時の流れをなぞるようにゆっくりと通り過ぎていった。

「人を愛するって、どういうこと? わからない。私には……」

 遠い目をした彼女の口からぼそっと、色を無くした言葉が零れ落ちた。(これは別れの場面だ。大学時代ではなく、二人が最後に交わした言葉だ。覚えている)しかし、私はあの日と同じように、返す言葉が見つけられず、不安の色を読み取られまいと、俯いて自分の足元を見下ろした――すると、突然地面がぐらつき始め、二人を取り囲む世界がまるで卵の殻が割れてゆくようにパラパラと崩れ出した。驚きのあまり、声も出せずにおろおろとしていた私たちは崩れてゆく地面の隙間から、世界の外側に広がる暗闇へと吸い込まれるようにして落ちていった。

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マウスでアニメやマンガのキャラクターのイラストや4コママンガを描いています たまに小説も^^

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